大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和58年(オ)333号 判決

上告人

清水商事株式会社破産管財人

河原崎弘

被上告人

萩原茂喜

右訴訟代理人

小室恒

主文

原判決中、上告人に対し昭和五四年九月二一日から昭和五七年七月七日まで一か月一三万円の割合による金員の支払を命じた部分を破棄し、右部分につき本件を東京高等裁判所に差し戻す。

上告人のその余の上告を棄却する。

前項の部分に関する上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由一、二について

記録によれば、原審が所論の点の審理判断をしなかつたことについて、審理不尽の違法があつたということはできない。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

同三、四について

原審が適法に確定した事実関係のもとにおいては、原審が上告人は被上告人に対し本件各建物を収去して本件土地を明渡す義務があるとした判断及び被上告人の附帯請求のうち上告人は被上告人に対し第一審被告清水商事株式会社が破産宣告を受けた昭和五七年七月八日から上告人において本件土地を明渡すに至るまで一か月一三万円の割合による賃料相当の損害金を支払う義務があるとした判断部分は、いずれも結論において正当として是認することができる。論旨は、独自の見解に基づき原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

職権をもつて調査するに、記録によれば、被上告人は第一審被告清水商事株式会社に対し、本件土地の賃貸借契約が昭和五三年七月三一日に終了したことを理由として、本件各建物を収去して本件土地の明渡を請求(以下「本件明渡請求」という。)するとともに、右契約終了の日の翌日である同年八月一日から右土地明渡ずみまで一か月一三万円の割合による賃料相当の損害金の支払を請求(以下「本件損害金請求」という。)したものであるところ、第一審は、昭和五五年四月四日、被上告人の右各請求をいずれも棄却する旨の判決を言い渡したので、被上告人は右判決を全部不服として控訴したところ、原審に本訴が係属中の昭和五七年七月八日、東京地方裁判所は、清水商事株式会社に対し破産宣告をし(以下「本件破産宣告」という。)、上告人を破産管財人に選任したため、本件の訴訟手続が中断するに至つたが、上告人が、同年一〇月一三日の口頭弁論期日において、「破産管財人に選任されることによつて清水商事株式会社の権利義務を承継したから訴訟手続の受継を申し立てる」と記載した受継申立書、破産宣告決定書の写し及び上告人が同社の破産管財人であるとの証明書を提出して、訴訟受継の申立をしたところ、原審は、右申立を理由あるものと認め、同期日において口頭弁論を終結し、同年一二月二二日、本件明渡請求を認容し、かつ、本件損害金請求については、昭和五四年九月二一日から上告人において本件土地の明渡をするまで一か月一三万円の割合による損害金の支払を求める限度で認容し、その余を棄却する旨の判決を言い渡したことが認められる。

しかしながら、本件損害金請求のうち本件破産宣告の日の前日までの賃料相当損害金の請求に係る訴訟は、破産法六九条にいう破産財団に属する財産に関する訴訟にあたらず、同法二四六条所定の破産債権の確定を求める訴訟となるべきものであるから、その受継は同法二四六条、二四四条二項、二四七条によつてすることを要するものというべきである。そうすると、原審が上告人の前記受継の申立の当否を判断するためには、被上告人が、本件損害金請求のうち本件破産宣告の日の前日までの損害金債権について、破産債権として届出をしたかどうか、右届出があつた場合において債権調査期日で異議があつたか否かを職権をもつて調査することを要したものというべきであり、調査の結果、右債権の届出があり、かつ、債権調査期日において異議があつたことが認められる場合に限り、その異議のあつた限度で、当該異議者との間で訴訟手続を受継させ、かつ、請求の趣旨を破産債権の確定の請求に変更することを促すべきであつたといわなければならない。

したがつて、原審の訴訟手続中本件損害金請求のうち本件破産宣告の日の前日までの損害金の請求に係る訴訟の受継には違法があり、右違法は判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決中右訴訟につき上告人を敗訴とした部分(上告人に対し昭和五四年九月二一日から昭和五七年七月七日まで一か月一三万円の割合による金員の支払を命じた部分)は破棄を免れない。そして、右部分については前記の事項につき更に審理を尽くさせる必要があるから、右部分につき本件を原審に差し戻すこととする。

よつて、民訴法四〇七条一項、三九六条、三八四条、九五条、八九条、九二条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(藤﨑萬里 谷口正孝 和田誠一 角田禮次郎 矢口洪一)

上告人の上告理由

一、上告会社は昭和五七年七月八日東京地方裁判所において破産を宣告され、破産管財人河原崎弘が本件訴訟を受継したのであるが、その後の昭和五七年一〇月一三日の口頭弁論期日において上告人は、地代の供託書(乙第六、第七号証)を証拠とし申請し、さらに主張、立証をするため、弁論の続行を求めたのである。

右乙第六、七号証によれば上告会社は地代を供託していることは明らかである。

ところが原審は結審をなし、上告人の主張・立証の機会を全く与えず、判決中で損害金の支払いを命じている。

二、乙六、七号証によると上告人が地代を供託していることは明らかである。従つて、上告人に損害金の支払義務はないのであるから、原審はこの点につき、当事者に審理を尽させるべきである。よつて、原判決には審理不尽の違法即ち民事訴訟法第三九四条に規定する明らかな法令違背がある。

三、原判決は更新された一時使用賃貸借契約が更新された後は、民法六一七条一項一号により一年の猶予期間を置けばいつでも解除し得るとするが、これは明らかに民法の解釈を誤つたものであり法令の違背がある。

借地上の投資した借地人の利益の回収を考慮すれば、更新後の解除には正当事由が必要であり、仮に正当事由までは必要なくも賃貸人が何らの利益もなく解除することはできないものである。

四、原判決は、当事者間に契約当初は、更新の約束があつたことを認めながら、他方、一度更新した後は、単に民法六一七条一項の適用を認め、更新を認めていない。従つて、判決理由に齟齬があり、これは民事訴訟法三九五条一項六号に当る。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例